気軽に、楽しめる長距離記録会
「50mダッシュ王選手権」の長距離版を満喫
「第1回かごしま長距離オープン記録会」挑戦記
フィジカルファクトリーが主催する「第1回かごしま長距離オープン記録会」の5000mに出場した。コロナ禍で各地のマラソン大会などの中止が続いた中で、私にとっては20年1月の「菜の花マラソン」以来、約3年ぶりとなるランニング大会の出場だった。
来年エントリーしている菜の花や鹿児島マラソンに向けて、自分の走りがどうかを試すことに加えて、初めて開催されるこのイベント自体にも大いに興味があった。
会場の鴨池補助競技場に着いていの一番に感じたのは、漂う緩やかな雰囲気だった。応援の保護者らがトラックの内側まで入って応援したり、スマホで我が子の勇姿を撮影していた。日頃見慣れている本格的な陸上の大会とは一味違う緩やかさに親しみを覚えた。
この雰囲気が何かに似ていると思った。SCCが毎年3月末に開催している「50mダッシュ王選手権」に通じるものを感じた。トラック上で「真剣勝負」が繰り広げられる一方で、学校や地域の運動会のような感覚で応援ができる。孫の走りに楽しそうに声援を送っている祖父母の姿が微笑ましかった。
最初の種目は小学生親子ラン1000m。小学生の子供と親が一緒に400mトラックを2周半してゴールを目指す。この記録会の楽しさ、醍醐味を象徴する種目といっていい。
トップで走った親子はそれなりに練習を積んでいたのだろう。軽快な走りで1000mを4分ちょっとのタイムで駆け抜けた。伴走するお父さん、お母さんたちに励まされながら、子供たちが一生懸命ゴールを目指す。挫折して大泣きしている子の手を引きながら少しずつ前進している姿も。
ゴールすると親が最後まで走り切った子供の頭をなで、抱き上げ、記録賞を手に記念撮影…親子が触れ合う姿があった。速かった、遅かった、きつかった、しんどかった、楽しかった…悲喜こもごもは様々あるけれども、親子でゴールを目指して最後まで走り切ったこと自体に大きな意味があると思った。
私も本来は小1の息子と走るつもりだったが、この日が娘の運動会と重なっていて断念した。今後も定期的に開催する予定なので次回は息子、娘とぜひ一緒に走ってみたいと思った。
小学生の1000m、中学生以上の1000m、1500m、3000mとプログラムが進む。中学生以上の種目では中学生と、一般の大人ランナーの真剣勝負が見られた。普通の陸上大会は男女、学年、学校、年齢などでカテゴリーが分かれていることがほとんどである。
SCCの50mダッシュ王選手権は、1回目に走ったタイムと同じぐらいの人同士で組分けされてセカンドステージを走る。小学生男子と中学生女子、中学生男子と高校生女子、時には小学校低学年の子供とマスターズのおじいちゃんで走る場合もあり、世代を超えたかけっこ競争が醍醐味の一つである。その長距離版のように思えた。
5000mのスタートは午後0時半。エントリーは17人だった。「ランニングブーム」もあって、5キロや10キロのロードレースは一般的だが、トラックの5000mや10000mを専門の陸上選手以外で走る機会はまずない。
私も小4から長距離走が得意になり、持久走、体育祭の1500m、校内ロードレース、駅伝、マラソンなど、長いこといろんな「レース」を経験しているが、トラックの5000mを走ったのは14年前の08年に陸協登録して2度走ったことがあるだけだ。
稀有なトラックレースだけに、いかにもランニング経験のありそうな「つわもの」の雰囲気を醸し出している参加者が多くて、ひるみそうになった。うれしいことに母校の野球部の先輩と後輩5人がいたので、メンタル的にはかなりリラックスできた。
スタートから7、8人の選手が飛び出した。ちょっと頑張ればついていけそうなペースとも思ったが、前半ハイペースで走って後半ガタ落ちするのは避けたかったので、自重した。
後で記録を調べると最初の1000mは3分57秒、2000mで4分12秒、3000mで4分23秒、4000mで4分27秒とラップは落ちていた。ラスト1周はペースを上げたので4分20秒。トータルの記録は21分22秒だった。
あわよくば20分を切りたいと思っていたが、トラックレース用のスピード練習も、マラソン用の持久練習も、この10日ほどさぼっていたので、妥当な記録だろう。順位は17人中10位だった。
「運動をする『ハードル』を下げたい」と思って企画したとフィジカルファクトリーの髙司譲さんは言う。日頃は県内の高校野球部などを中心に、様々なアスリートのフィジカル、メンタル面のトレーナー活動をメーンで取り組む。近年では職場や高齢者の健康指導などにも携わる中で、健康寿命を延ばすために運動する楽しさを伝える活動を始めた。
今回のオープン記録会もその一環で実施したものだ。鎌倉や栃木で同様な取り組みをしている西堂路淳さんに指導を仰いだ。初めての試みだったが約220人の参加者があり、それぞれのゴールを目指して汗をかいた。「運動を通じた健康づくりと家族や仲間や友達との楽しい交流の場づくりになったのでは」と言う。
トップアスリートでなくても、それぞれが、それぞれのできる範囲で、運動に取り組み、健康で生き生きとした人生を歩めるようになることが、最終的には「地域の活性化」につながるという想いがある。
ひと頃、「ランニングブーム」の影響で、マラソン大会やランニング大会などのイベントが全国各地で立ち上げられた。東京マラソンや鹿児島マラソンのような大都市の大規模マラソンの人気が高まる一方で、気軽に参加できる地方の小規模のロードレース大会は参加者が集まらないことや経費の問題などで、中止や規模縮小になるケースが増えた。長引くコロナ禍がそれに拍車をかけた。
未だ出口の見えないコロナ禍も考慮すると、小規模で気軽にできるトラックの長距離レースは、今後ニーズが高まるのではないか。各自治体が持つ公営の競技場が活用できるし、場所によっては廃校になった学校のグラウンドの有効活用にも一役買えないだろうか。そんなイベントとしての可能性も感じた今回のオープン記録会だった。
久しぶりにトラックレースを走って気づいたことがあった。
トラックを12周半、周回するのでレースが進めば、自分より速い選手に周回差つけられたり、遅い選手を抜くのが度々繰り返された。野球部の先輩、後輩を後ろから抜くたびに「ファイト!」と声を掛けると、自分自身も元気が出た。
考えてみれば、広い場所をとるロードレースは、一緒に走っている仲間と声を掛け合う機会は少ない。鹿児島マラソンや阿久根のボンタンハーフマラソンのように、折り返しがあるコースなら、往路、復路のすれ違いで気づけば声を掛け合えるが、それも1回きりである。
トラックはずっと同じ場所、お互い見えるところを走っているので、1人ではない一体感を味わえた。応援する人たちもずっと走っている姿が見られるのはロードレースにない利点である。走ってみて新たに発見できた「気軽に楽しめるトラックレース」の醍醐味だった。