
「こうとしか生きようのない人生がある」堀内孝雄「遥かな轍」の出だし。1987年末に日本テレビ系で放送された年末時代劇スペシャル「田原坂」の主題歌である。
主人公・西郷隆盛の生き様を一言で物語っているような気がしてならない。幕末から明治にかけて、日本が封建社会から近代国家へと脱皮していく時代の中で、西郷、大久保利通、木戸孝允、西郷従道、桐野利秋、島津久光…こう生きたい、こうありたいと願った生き方はあっても、こんな生き方しかできなかった。そんな悲壮な想いを端的に表現している。
85年の「忠臣蔵」に始まり、「白虎隊」「田原坂」「五稜郭」と続く年末時代劇スペシャルは、小学校高学年から中学生にかけて、多感な時期を過ごした筆者の少年時代にとても影響を与えた作品である。特に幕末3部作は、鹿児島の偉人が多く登場するので、夢中になった。
幕府側、新政府側、「主役」が交互に入れ替わるので、どちらかの視点に偏ることなく、双方の視点に共感できた。白虎隊を見れば、敗れた会津の無念に涙し、田原坂なら維新の大業に貢献しながら、その矛盾を飲み込んで死んでいった西郷の心に涙し、五稜郭では蝦夷地に夢を託した榎本武揚の悲壮な覚悟に涙した。
大河ドラマ「篤姫」では篤姫が「一方聞いて沙汰するな」という名言を残したが、思春期の多感な時期に相反する双方に感情移入できたことは、「記者」という仕事をする上でも大きく役立っている。