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スペシャル対談・スポーツで稼ぐ力をつけるには?vol2

 「さつまおいどんリーグ」の小薗健一実行委員長=写真左=と、鹿児島レブナイズの山崎俊オーナー=写真右=との対談。野球とバスケットボールで鹿児島に新たな「稼ぐ力」をもたらしている2人のリーダーに、「スポンサー」をテーマに語ってもらった。

企業がスポンサーになる意義とは?

  私から1つ「スポンサー」ということについての話題を提示します。もう十数年前の話ですが、県バスケット協会依頼のイベントで私がパンフレット作成の依頼を受け、小薗先生の会社に広告協賛をお願いしたことがありました。5,000円から10,000円ぐらいの額だったと思います。その頃「費用対効果」という言葉を学び、単なるタニマチ感覚のお付き合いではなく、きちんと出してもらった以上は、それ以上の効果があるようにしたいと思い「お弁当が売れるようにしますから」とお願いしたのを記憶しています。小薗先生は「10,000円の売り上げを上げるために、弁当がいくつ売れればいいか、知っているか?」と真剣な表情で尋ねられました。おそらく、そのイベントで数百部刷る程度のパンフレットに広告を載せたところで10,000円以上の粗利はとても見込めない。余計な小細工をせずに、「お付き合いでお願いします」と言ってくれた方が、まだスッキリするという教えだったのでしょう。

 こののち、スポーツとお金について考えるとき、いつもこれは胸に引っかかる出来事でした。スポーツ、特にプロスポーツはお金がかかり、そこにスポンサーという存在は不可欠です。以前、スポンサーについて専門的に研究した人から「一般論として、企業が求める費用対効果を実現できるのは、高視聴率が約束され、世間の圧倒的な注目を浴びる男子サッカーの日本代表レベルの媒体価値です」という話を聞いたことがあります。例えばユニホームの胸スポンサー代で100万円支払ったとして、100万円以上の宣伝効果が期待できるのは、日本では男子サッカーの代表チームだけということです。これは10年以上前、2012年に聞いた話なので、今は状況が違うかもしれませんが、支払ったスポンサー料金以上の広告宣伝効果は期待できないけれども、企業がスポンサーとしてお金を支払う意味、意義はどこにあるのか、お2人に伺います。

 山崎 それこそまさに「稼ぐ力」なのだろうと思います。スポンサーとしてお金を出す企業も、それを受けるプロスポーツクラブも「稼ぐ」ことが何より大事になってきます。

 スポンサーの話の前に、まずは「チケット代」についてお話ししましょう。バスケットにしても、バレーボールにしても、サッカーにしても、2,000円から6,000円ぐらいまで席によって値段を変えています。鹿児島の県民所得はワーストから数えた方が早く、決して高くはありません。そんな中で、どういう値段設定をしていくか、これまでも、そして来季以降も難しい問題なのです。一方で選手の人件費は高騰しており、チケット代も値上げしていかないと、持続可能なクラブ運営は難しいです。しかし県民の皆さんに見に来ていただけないことには、本末転倒です。その辺のバランスはとても難しいです。

 スポンサーの皆様からのご支援も同じです。個人にしても、会社や法人にしても、鹿児島における「稼ぐ力」を高めていかないと、持続可能な成長は見込めません。これはどのスポーツにもいえることでしょう。こういう考え方でやっていくと、私たちがやっている地域のプロスポーツとはまさしく「地域創生」です。どうやってオール鹿児島で稼いでいくか、企業が力をつけていくかという議論になってきます。こういうことは私や、小薗さん、鹿児島ユナイテッド(鹿児島U)の湯脇健一郎さんや德重剛さん、単体の力だけではどうしても解決できないことです。やはり県知事さんや各市町村の首長さん、大企業の社長さん、皆さんが一緒になって考えて下さらないと、持続可能な地域スポーツクラブ運営は難しいです。

 どの時間軸で、どう進めていくかということですが、例えば「おいどんリーグがなくなる」「レブナイズがなくなる」「鹿児島Uがなくなる」…これは「鹿児島の危機」じゃないですか。1年間約100億円の経済効果が吹き飛ぶことになる。しかし、口で言うほど「持続可能」は簡単ではありません。スポンサー企業の皆様、チケットを買ってくださる皆様、踏ん張っている皆様がいてくれるおかげで、今のところは何とかやっていけている。「炎」はどんどん大きくなっているけれども、踏ん張りが利かなくなる危険性は常に秘めている。だからこそ、力のある方の応援をいただくことが、鹿児島のプロスポーツには不可欠だと感じています。それは鹿児島だけではなく、日本の地域スポーツ全てに共通していることかもしれません。

 小薗 山崎さんの話を聞いていると、身につまされます。先程話したおいどんリーグの「ご当地丼」の話を、先日ある人にしました。例えばこの事業をどこかの放送局がオペレーションしてイベント化したとします。作るのは県内の業者です。では仮にこのイベントをやったとして、売り上げの中から仕入れ代などを業者に支払うと、放送局に出る利益などは微々たるものです。イベントをやるための場所代やテント代、人件費などまで考えたら、とても採算が合うものではない。だからこそ、こういうイベントにはスポンサーが必要になってくる。スポンサーからの支援があって、ようやく放送局に薄い利益が出る。その埋め合わせのためにおいどんリーグ本体のスポンサーから頂く利益を削っていくことになるかもしれない。そうすると本体のスポンサーにご迷惑になるのではありませんか?という話を聞いたところでした。

 バスケットにしても、サッカーにしても、それぞれの試合のチケット収入などの売り上げだけで運営を成り立たせるのは本当に難しく、大変なことです。なぜなら選手に年棒を支払わなければならないからです。そのためにもスポンサーに頼らなければいけないのが現状なのでしょう。ある人がこんなことを言いました。「バスケットにしても、サッカーにしても、プロスポーツを運営するのはとても大変なはずだ。なぜなら、お金をかけて良い選手を買ってこなければ成り立たないから」。それに比べれば、我々がやっている「おいどんリーグ」は選手に給料を支払う必要がありません。必要なのはせいぜい審判代やお弁当代ぐらいのものです。予算規模はたかだか数千万程度。私には地域のプロスポーツを語る資格はないとさえ思います。ある意味、よそからやってくるアマチュアチームのおかげで経済効果を生むイベントをやっているというのは、卑怯なやり方なのかもしれません。そんなチームを私たちで運営しようと思えば、これはなかなか難しい。なぜならお金がないから。企業に力がないから。先程、「持続可能なものを」と話していましたが、そのキャスティングボードを握っているのは地元企業のパワーである。そういうことを山崎さんはおっしゃりたかったんだと私は思っています。

 野球で考えるなら、鹿児島にも都市対抗を目指すような企業チームが「あったらなぁ」と夢想するのです。例えば京セラさんが国分に野球チームを作る。手っ取り早く実現するのはそういう方法です。しかし、今までそんな話は聞いたことがない。では、鹿児島の地元企業でできるのかといえば、主だった企業も本体の事業さえ、先行き不透明なのに野球部を作るというのは困難な話でしょう。選手にお金をかける。強いチームでなければお客を呼ぶこともできない。本当に難しいことですが、山崎さんたちはそういう難しいことを鹿児島でチャレンジしてくださっていると敬意を抱きます。

 私たちの「おいどんリーグ」もたかだか数千万とはいえ、スポンサーを集めるのに必死になっている。お金を出してくださった以上の売り上げを約束できないので、企業の「ブランドイメージ」を高めるということに注力しているのが現状です。私たちは、今年の大会から、未来の子供たちに野球を通じて「あこがれ」を抱いてもらいたいという「あこがれプロジェクト」として取り組むようになりました。スポンサー様には、おいどんリーグのスポンサーとして一緒に参加していただくことで「子供たちのためにあこがれを作っていきましょう」というのが合言葉になっています。

 野球人口が減っている昨今、おいどんリーグを通じて子供たちに「すごいもの」を見せる。私が幼い頃、宮崎のジャイアンツキャンプで王さん、長嶋さんを見て感動したように、慶応大を、東京ガスを、トヨタ自動車を、彼らの野球を見せることで「スポーツにあこがれを抱く」チャンスを生み出そう。こういう話を持ち掛けると、企業ブランドイメージを上げるということで話にのってくださる企業が多いです。

 ここまでになってくると、「教育」という分野の話にもなってきます。教育が絡んでくると別の意義みたいなものも見えてきます。スポーツの価値を高めることにつながってくる。私は元教員だったので、5年、10年、30年、50年、100年後の日本社会を考えた時に、今スポーツが果たす役割はとても大きいと考えています。

 スポーツには2つの属性があり、先程から話しているような観光資源やエンターテイメント、地域活性化としてのスポーツと、もう一つは元々日本にあった教育=体育としてのスポーツです。今、子供をどう育てていくかを考えた時に、教員をはじめ大人たちがいろいろと難しい立場に立たされています。スポーツの中には、子供たちが社会を生き抜いていく上で必要な知恵や力を授ける要素が、まだまだあると私は考えています。プロであれ、アマチュアであれ、今、スポーツに取り組んでいる指導者、団体、チームはそういうことの責務も担っているのではないでしょうか。そう考えると、スポーツを支援する企業の責任という意味でも、新しいものを帯びてくるのではないか。今そういうことを折に触れて訴えているところです。(続く)

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