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スペシャル対談・スポーツで稼ぐ力をつけるには?vol3

 野球の「薩摩おいどんリーグ」の小薗健一実行委員長=写真左=とプロバスケットボール球団・鹿児島レブナイズの山崎俊オーナー=写真右=とのスペシャル対談。最終回は、「スポーツと教育」など、これからの鹿児島を創っていくためにスポーツが果たす役割について熱く語ってもらった。

スポーツと教育

  山崎さんが今年の正月、Facebookに吉田松陰の言葉を紹介されて教育の重要性を訴えていたのが印象に残っています。ご自身でも従業員を抱える企業の社長をされ、社員教育は大切なお仕事の一環でしょう。またレブナイズという、これからの未来を担う子供たちに憧れを提供する使命を帯びたプロスポーツチームの運営者としても、今の話で心に響くものがあったのではないでしょうか?

 山崎 鹿児島には「郷中教育」という伝統があります。ビジネス的に「稼ぐ力」をつけていくだけでなく、未来を担う人材をどう育てていくか。これも大事なテーマだと思います。

  昨年から発足した実業団チームの「レッドモンスターズ」も実業団選手としてプロを目指す場とチャンスを与えつつ、社会人としてフルタイムで働きながら社会人教育を受ける場にもなっているというのが素晴らしいと思います。せっかくの機会なので、元教員の小薗先生に聞いてみたいことなどありませんか?

 山崎 よその県にはない、鹿児島だけの独特な教育みたいなものってあるのでしょうか?

 小薗 かつて、鹿児島は「教育県」と呼ばれていました。例えば高校野球でも、部員は全員丸刈り。指導者の話を聞くときも直立不動で最後まで微動だにしないというような雰囲気が根強くあったと思います。西郷隆盛、大久保利通といったような明治維新の原動力となった偉人を生み出した郷中教育のDNAみたいなものは確かにありました。しかし、今は全国平均ぐらい。もしかしたら平均以下かもしれません。他県の指導者と話しをしたり、よその県のチームの練習をみたりしていると、鹿児島の方がダメになっているのではないかという危機感を感じることがあります。教育現場の混乱、近頃取り沙汰される「学級崩壊」などは進んでいる方かもしれません。公立高校と私立高校。かつて鹿児島県は公立人気が高い県でしたが、今私立の人気がとても上がってきています。私立人気の加速の一方で公立離れが進んでいます。これはどういうことを意味するかといえば、世の親御さんはある程度の規律正しさを子供に身に着けて欲しいと望んでいるということだと思うのです。どちらが思い切った教育ができるかといえば、それは私立の方です。公立は悪い方の平等に合わせてしまう。特別なことが何一つできない。だから私立の方の人気が上がってきています。鹿児島は公立学校に代表される公の教育がどんどんダメになっているような気がします。

 山崎 先程からテーマにしている「稼ぐ力」をどうやってあげていくのか? 知事や市長も掲げていますが、外貨を稼ぐという話がよくでてきます。鹿児島のものを県外、海外に輸出して、お金を得る。もう一つはインバウンド。県外、国外の富裕層を県内に呼び込み、お金を使ってもらうにはどうしたらいいか。このあたりは鹿児島県としては積極的にやっていくぞという姿勢ではあるのでしょうか?

  今の塩田知事は「稼ぐ力」をテーマに挙げています。前の三反園訓知事は、かつて宮崎で東国原英夫知事がしたように、鹿児島の良いものを全国に「トップセールスする」のだということを掲げていました。海外出張などにも積極的に出ていました。しかし、それがどう実を結んだか? 昨年の「鹿児島ダッシュキャンプ」で鹿児島のお茶や、肉などを積極的に海外展開している企業のトップのお話を聞きました。そういった「個」の活動に山崎さんが心動かされ、東京の商社の方を紹介したり、一緒に何かやっていきましょうという場を作ってくださった。あくまで私の個人的な印象ですが、県がイニシアティブをとっているというよりは、各企業が個別に努力している成果にとどまっているのではないか。塩田知事の「稼ぐ力」にしても、三反園知事の「トップセールス」にしても響きの良いキャッチコピーでとどまっていて、実質的に浸透して、何か成果を挙げているイメージがまだないと感じています。

鹿児島銀行に硬式野球部を!

 小薗 おそらく、どれだけ行政が「ああだ」「こうだ」と言ったとしても、山崎さんが納得する答えは出ないと思います。私は鹿児島銀行さんに野球部を作ってくれと提案したことがありました。平日2、3日は県内で練習する。土日は「研修」の名目で関東に遠征する。試合会場は東京ガスやJR東日本など社会人チームの持っているグラウンドでやる。年間50週間ぐらいありますから、常に東京を中心とした中央の風を感じるようにする。野球部には東京大、早稲田大、慶応大クラスの人間を採用する。普段は鹿銀で仕事をしながら仕事半分、野球半分で取り組む。土日は東京に行ってあちこちで試合もしますが、野球とは関係ない仕事の研修もやりましょう。そうやって集まって育てた優秀な人材が30歳前後で引退したら、できるだけ鹿児島の企業、鹿銀の影響力がある企業に派遣する。中には東京に戻る人もいるかもしれませんが、それは仕方がない。そうやって先々のことまでが見えている人材を鹿児島に引っ張ってくることが大事なのではないか?

 今まで語ってこられた山崎さんの話を、理解できる人材が、まだまだ鹿児島には少ない。そういう人材を引っ張ってきて「やろうぜ!」という気概のある人を育て、鹿児島に散りばめることができる企業は鹿児島銀行しかない。そういう橋渡しを野球でやっていきましょうという話を、関係者にしているのですが、あまりピンとくるものがない。私の考えが間違っているのかもしれませんが。この街、鹿児島に住んでいて、「これから楽しみだ」とはあまり思わないです。同じようなことをみんな言っているけど、何かダイナミックに変わったことが、この10年、20年あるだろうか? 何も変わってないじゃないかという気がしてならない。

  先日、山崎さんと県バスケットボール協会の鮫島俊秀会長との対談でも話題になったことですが、今、山崎さんはかつての「黒船」のような存在になって鹿児島の人たちに意識改革の重要性を訴えている。私もそれに応えたいと思っています。その気概だけはあるのですが、今はまだ自分で立ち上げたスポーツメディア事業をかたちにすることに試行錯誤を繰り返しているところです(苦笑)。あの対談のまとめのコラムでも書きましたが、本気でもっといろんなことに取り組んでいかなければ、鹿児島はその持っている潜在力を生かすこともできず、少子化、人口減少の波に飲み込まれてしまう。「良いものがいっぱいあるのに、もったいないですね」で終わってしまう。

 山崎 「稼ぐ力」というテーマに戻ると、稼げる力を鹿児島がつけることによって、先程小薗さんがおっしゃるような人材を鹿児島に引っ張ってくることも可能になると思います。「こうやって稼いでいくんだよ」という筋道を何がしか作っていく必要もあると考えています。外貨を稼ぐ重要性も感じています。レブナイズにしても、県内の企業にスポンサーをお願いして回ることが多いですが、県外の企業にも積極的に営業活動をするようになりました。県外の人が「鹿児島でチャレンジしたい」「鹿児島で稼ぎたい」…そういう土壌づくり、受け入れ態勢、コミュニケーション、評価といった部分を、鹿児島の力のある方々が担ってくれるとありがたい。私も日頃は東京にいますから、そういうことを鹿児島に伝えていきたい。そうすることで鹿児島の稼ぐ力が伸びてくるのではないでしょうか。

鹿児島の持つ「魅力」とは?

  元々鹿児島に縁やゆかりがあったわけでない山崎さんが、レブナイズのオーナーを引き受けたのは、一番難しい「スポーツ」という分野で「地域創生」を成し遂げたいという想いがあったからだと聞きました。改めて4年間、レブナイズのオーナーをしていて、鹿児島の持っている魅力は何だという風に感じていますか?

 山崎 持っているコンテンツは全てにおいて最高クラスのものがあると思っています。こんなに近くで桜島を見られる。明治維新に代表されるような歴史的な資源も豊富にある。魚、肉、お茶…食材もたくさんある。芋焼酎のような地酒もあり、温泉もある。まだまだ多くの人に知られていないコンテンツが鹿児島にはある。では課題は何かといえば、一つは「セールス」です。県外から来た人がいかに鹿児島に「投資」してもらえるようなもてなし=セールスができているのかどうか。確かに鹿児島で食事をすれば、食事の質から接客などのスペックは相当高いものがある。ただいわゆる知事クラスのトップセールスという点ではまだまだ物足りないものがあるのではないかとも思うところです。

 小薗 この対談の前に、山崎さんってどういう人なのかということを知りたくて、FacebookやXの投稿を見ました。バスケットボール、バレーボール、サッカー…いろんなプロ球団の代表や日本トップクラスの経営者の方と一緒に並んだ写真がありました。皆さん本当に若い!(笑) 30代、40代の方々ばかりです。振り返れば、西郷隆盛や大久保利通も倒幕から明治維新の頃は3~40代の若い年代で活躍していました。海外に目を転ずれば、フランス革命にしても、アメリカ独立革命にしても、中心になったのは、エネルギーのある若い世代でした。

 鹿児島がアメリカの「シリコンバレー」みたいになるのはどうすればいいかという発想だと思うのです。今、山崎さんたちは、鹿児島に留まらず、日本においていわばスポーツを通じた「革命」を起こそうとしている。そういった人たちが鹿児島にも出てくる土壌をどうやって作っていくか。そういう発想が大事になってきます。旧態依然とした枠組み、考え方で、鹿児島のものをトップセールスしよう、鹿児島に外貨を獲得させようとするのは難しい。意識の大変革が必要です。今そういうことを山崎さんたちが取り組んでいる。だからこそ、これを鹿児島の財界全体にも波及させていくにはどうしたらいいかを、真剣に考えていかないといけないですね。(了)

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