
小薗健一氏(薩摩おいどんリーグ実行委員長)
山崎俊氏(鹿児島レブナイズオーナー)
先日、サッカーの鹿児島ユナイテッドFC(鹿児島U)の24年の経済効果が69億円と発表があった。今年で3回目を迎えた野球の「薩摩おいどんリーグ」は2、3月の約2週間余りの大会期間中に約10億円の経済効果があったという。24―25年シーズンをB2で戦ったバスケットボールの鹿児島レブナイズは約27億円。単純計算するとサッカー、バスケットボール、野球の3つで、1年間に100億円以上の経済効果を鹿児島県に新たにもたらしたことになる。2期目を迎えた塩田康一知事は「稼ぐ力」を政治課題に掲げている。鹿児島U、レブナイズ、おいどんリーグはこの約10年の間で、鹿児島に新たな「稼ぐ力」を生み出した「コンテンツ」といえる。今回の対談はおいどんリーグ・小薗実行委員長と、レブナイズ・山崎オーナーとで「スポーツで稼ぐ力」をテーマに持論を語ってもらった。
テーマは「稼ぐ力」
政 今回は「スポーツで稼ぐ力」をテーマに対談を設定しました。まずは小薗先生から自己紹介をお願いします。

小薗 元々、鹿児島で高校の教員をしながら野球の監督をしていましたが、ある想いがあって40歳で辞めて、弁当屋を始めました。枕崎高校野球部の寮を経営しながら監督をしています。大きく飛躍的に勝ち上がることはあまりないのですが、長いこと野球の指導に携わっていたことで生徒、保護者、他チームの監督、社会人、大学、アマチュア野球の関係者とのご縁ができました。3年前に鹿児島でキャンプを張っている大学野球の監督から「鹿児島に恩返しがしたい」と、2、3月の時期に鹿児島でキャンプを張っている社会人、大学、クラブチームなどアマチュアチーム同士の交流戦をやってみたいというアイディアをいただきました。私の会社がキャンプでやってくるチームの食事などを世話していたご縁もあって、実行委員長を引き受けることになりました。
経済効果ということですが、我々はずっとグラウンドの中で野球をやることが第一という感覚でやっていましたので、山崎さんたちがプロチームということで抱えていることに比べれば、プレッシャーは1万分の1です! それを目的にはしていなかったし、最初は経済効果という観点で語られることが嫌でした。ただ回数を重ねていくうちに、スポンサーからお金をもらいながらやっていくということは、こういうことなのだということがやっと理解できて、逆に今はすごいプレッシャーを感じてやっています(苦笑)。
正直なところ、僕らはおいどんリーグをやることで食べているわけではないし、お金をもらっているわけではありません。僕らが「稼ぐ力」というよりも、このイベントに関わってくださる多くの企業さんに「稼いでもらう力」を我々はつけなければならないと思っています。一番大切にしているのは鹿児島に来てもらっているチームに喜んでもらい、なるべく多くの観客に見てもらいたいと考えています。経済効果10億円の内訳のほとんどは県外から鹿児島に来ているチーム、選手の出費です。見に来られた観客の方が払っているお金は少ない方だと思います。これをどうやったらいいんだろうというのは、山崎さんたちの取り組みに学びたいと思います。入場料やグッズ販売の売り上げは、スポンサー売り上げに比べたら難しいものがあると思います。これをどう増やしていくのか? 10億円の効果があったことは喜ぶよりもプレッシャーにしか思っていません(笑)。ここから先、これを増やしていくことが、スポンサーへのお礼、鹿児島県へのお礼になるので、きょうはそういったことを学ばせていただければと考えています。

山崎 株式会社Wiz代表の山崎です。約4年半前の21年に、鹿児島レブナイズというプロバスケットボールチームの株式の過半数の譲渡を受けて、レブナイズの運営、経営を行っています。最初は私が代表ではなかったのですが、2年ほど経過したタイミングで代表取締役CEOに就任し、Wiz社の代表とレブナイズの代表を兼務しています。今年の5月で我々が運営するようになって4シーズン目が終わり、10月から5シーズン目が始まります。きょうのテーマ「稼ぐ力」ということで2点ほど挙げてみます。1つはこの4年間で、それなりにレブナイズに投資をしながら、レブナイズが巻き起こす「炎」を少しずつ大きくしていきました。この4年間でWiz社が約7億円の負債をかかえ、レブナイズに資金を補填しています。これは私個人のお金ではなく、会社のお金ですから、5年かかるのか、10年なのか、20年なのかは分かりませんが、回収していく必要があります。
もう一つは、ファンベースで考えていくと、レブナイズの事業は年々拡大することができました。「炎」がどんどんどんどん大きくなっています。逆に言うと、この炎を消すわけにはいかない。レブナイズをどう持続可能にしていくかというプレッシャーも多々背負っています。レブナイズとしてどう稼いでいき、黒字運営をしていくのか、ずっと模索をし続けています。
「経済効果」とは?
政 まずは「経済効果」について伺います。先程、小薗先生からは10億円の経済効果の大半は県外からやってくる大学、社会人チームが支払っている宿泊費などの滞在費というお話がありました。また山崎オーナーからはWiz社が約7億円の負債を抱えつつも27億円経済効果があったと話されました。これについて山崎さんはどうお考えでしょうか?

山崎 どういう計算式で出されたか分かりませんが、レブナイズの27億円、鹿児島Uの69億円という数字は、おそらくアウエーからやってきた人たちが、鹿児島に滞在する間に支払ったものではないかと考えています。日本では野球→サッカー→バスケットという順番でプロリーグができました。サッカーの場合は熱心なサポーターがアウエーまで観戦に行くという文化が進みつつある。バスケットも、まだまだ少ないですが、レブナイズ規模のチームで20億円後半の数字が出るようになってきました。アウエーのお客さん以外では、地元・鹿児島のブースターがホームゲームで飲食したり、チームのグッズを購入して頂いているのもこの数字に含まれていると思います。
政 おいどんリーグの場合も、確かにチーム関係者が大半ということですが、例えば熱心なソフトバンクファンで、三軍の推しの選手を見に週末鹿児島にやってくる人がいたり、慶応大学でスポーツ新聞を作っている学生さんが取材で来るなど、少しずつ県外からやってくる人たちも増えているように感じたのですが、小薗先生、いかがでしょうか?
小薗 先程も話しましたが、最初にそういう経済効果を狙って始めたことではなく、やっている中で、気づかされ、プレッシャーを感じながらやっている段階で、まだまだ正式なスタートも切れていません。来年のリーグで考えているのは、おいどんリーグの試合が開催される9つの市で、それぞれ特徴ある丼を作る。それがあることで「食べに行ってみよう」と県内のインバウンドを誘発したい。9つの各市にお金が落ち、行く行くは鹿児島に入り込んでみたいと思わせるものを創出したいと考えています。

どのくらいのものになるのかは分かりませんが、少しずつ少しずつ積み重ねていき、「出水の丼が美味しかった」「私は姶良の丼が一番だった」という風に話題になっていく。おいどんリーグの期間中は9つの丼が勢ぞろいするような催しを、バスケットやサッカーなど他競技のイベントとして開催する。東京にある鹿児島のアンテナショップでも催してみる。リーグ期間中、鹿児島空港に行けば9つ全て食べられる。そういったことを計画しています。あとはおいどんリーグにはタオル、Tシャツ、キャップなどのグッズがありません。こういったこともやっていきたいので、山崎さんに学ばせていただきたいと考えています。
これまで鹿児島で「スポーツ」が観光に結びつくことはなかったのですが、Jリーグの熱がどんどん上がっていくことに伴い、バスケットのBリーグ、バレーボールのVリーグなど、プロスポーツができて、「観光資源」として活用されるようになった。我々も県とやりとりする窓口はスポーツ振興課です。スポーツには2種類があり、従来の体育教育としてのスポーツと、観光、文化面と密接に結びつくスポーツによる地域振興の2種類です。見る人のためのスポーツや観光資源としてスポーツを活用するという発想が、鹿児島はまだまだ遅れています。もっとスポーツが地域と結びつき、地域の魅力を発信するコンテンツに育てていきたい。それらがいつの日か「ふるさと納税」へとつなげたいと思っています。そうすることが開催を協力してくれた9つの市に対する恩返しになるのではないか。その納税されたお金は野球場をはじめとするスポーツ施設整備のために使うという風に「目的税」化されていけば、納税してくれる人の意図をくんだものになるのではないかと考えています。そういったことを山崎さんたちは先行して取り組んでらっしゃると思うので、いろいろとご指南いただきたいです。
山崎 グッズやチケットの収入に関しては、我々も最初は全然うまくいきませんでした。いろんなことに取り組みました。掲げたスローガンは「鹿児島ショータイム」。鹿児島はどうしてもエンターテイメントが少ない。野球やサッカー、バレーボール、ハンドボールなどいろいろある中で、我々は「バスケットで土日にショーを見せる」という発想で取り組んできました。

チケットも最初は無料招待から始めました。昨季からは有料で購入して頂けるようになりましたが、冒頭で7億円投資したように、いろいろと苦難があった末に、おかげさまでチケットやグッズが売れるようになった。会社としては今7億円ぐらいの売り上げをあげられるようになり、4年間で毎年2億円ずつ増えています。これらをもっと拡大させつつ、どう持続可能なレブナイズを作っていくかに取り組んでいるところです。
政 やはり「スポーツ」ですから、野球にしてもバスケットにしても、やっているゲームが魅力ある面白いものでなければ、それに付随するグッズなどの商売もついてこないのでしょう。おいどんリーグは、大学、社会人などアマチュアチームのキャンプ中の練習試合ですが、慶応大とソフトバンク三軍が対戦したり、社会人と大学の日本一チームによる日本一決定戦を組むなど、「ピックアップゲーム」ということで、魅力あるチーム同士の対戦カードを組んでいる。この辺りに何かヒントがありそうです。
小薗 鹿児島は高校野球以上のカテゴリーの野球が少ない。高校球児にとっては上のカテゴリーの、レベルの高い野球を身近に見られる環境がないのが残念なところでした。しかし、春先2、3月のキャンプ期間中は、東京を中心に大学、社会人のアマチュア日本一クラスのチームが鹿児島にやってきている。これは千載一遇以上のものがあるのではないかとずっと感じていました。

なぜそういうチームが鹿児島にやってくるかといえば、まずは温暖な気候です。そして食事が美味しい、温泉があるということを理由に挙げる人が多い。指宿でのキャンプは人気があります。あとは宮崎、沖縄のようにプロのキャンプがない分、良い施設が使える。「鹿児島は球場が良いです」と県外からやってくるチームの方が言う。我々にはない感覚でしたが、なるほど宮崎、沖縄もキャンプ地として人気がありますが、良い施設は全部プロが抑えてしまうので、アマチュアチームには回ってこない。だからプロのキャンプがない鹿児島を選んでくれるということを気づかされました。では大学、社会人野球の魅力を、本当に鹿児島の人たちに分かってもらえているのか? そこは我々の努力不足もあって、まだまだ伝えきれていないと感じます。それを本当に分かってもらえると、もっともっと多くの人に足を運んでもらえるイベントになるのではないかと考えているところです。
先程ピックアップゲームの話がありましたが、とても賑やかに開催するために、飲食業者にキッチンカーを出してもらっています。業者の方に「今、一番キッチンカーを出して売れるイベントは何ですか?」と聞くと「レブナイズのホームゲームだ」と言われるのです。最初はサッカーでしたが、今はレブナイズなのだそうです。これは山崎さんたちが努力されたことが実ってきた成果なのだと思ったところです。これは今年の2月に聞いた生々しい現場の声です(笑)。27億円の経済効果のうち、これらキッチンカーの売り上げがどのぐらい含まれているのか、分かりませんが、良い状況を作られた山崎さんたちの4年間の苦労が垣間見えて、我々も学ばないといけないと思ったところです。

山崎 そんな風にほめていただけるのはとても励みになり、うれしいです。もっともっと売れるようにこれからも努力していきます!(続く)