ICTが広げた離島教育の可能性

2025年度から大島地区の高校に対する遠隔授業が本格的にスタートした。小規模校で教員数の少ない大島北、古仁屋、喜界、沖永良部、与論の5校に、鹿児島市の県総合教育センターにある遠隔授業配信センターから、ICT(情報通信)技術を活用して授業をする。4月10日から本格スタートして約1カ月。遠隔授業の可能性や見えてきた課題などをレポートする。
Zoomを活用したオンライン授業
「先生の後に続いて読んでみましょう!」。画面に向かって語り掛ける。授業で使用するのはWeb会議システムのZoom。画面に映っているのはここから数百キロ離れた古仁屋の2年生で、実施科目は英語。配信センターのリーダーでもある有嶋宏一教頭が担当している。
取材に訪れた5月13日午後は瀬戸内町で停電があり、十数分つながらなかった。その間は事前に渡してあったプリントで自習。停電が回復してからは機械のトラブルもなく授業は順調に進んだ。当初の音読と文法の両方をする予定だったが、停電のトラブルもあって時間が少なかったので音読のみだった。
授業が終わると、専用のシートにどのくらい理解できたかの自己評価や感想、質問などを書き込むと、リアルタイムでセンターにも届く。板倉そらさんは「アンケートがあってすぐに質問ができるのでありがたい」と言う。「学校にいる先生とは別の先生の授業が聞けるので、英語が楽しくなってきました」と平田愛乃さんにも好評だった。
オンライン授業ならではのメリット
対面の授業だと、直接教諭に質問するのは若干のためらいがあるが、オンラインだと即座に質問が寄せられるのが有嶋教頭にとっても新鮮だった。受け持つ生徒数が少ないこともあり、対面の時以上に「生徒の表情がよく見える」とも感じる。
一方的に授業を進めるだけでなく、生徒たちの反応を見ながら、進め方や伝え方を工夫するなど、臨機応変な対応を心掛ける。授業は録画してあり、クラウド上に保存してあるので、復習したければ何度でも見直すことができる。通常の授業以外でも、生徒からの質問を答えた動画なども保存されているので「まるで自分の分身がいるみたい」(有嶋教頭)。試験や問題プリントなども、コピー機でPDF化したファイルが送られてくるので、採点も問題なくできている。
離島教育の可能性が広がる
ICT技術を駆使した遠隔授業ならではのメリットは多いが、機材を使用するので、機材の不調や停電のようなトラブルにも対処しなければならないのがデメリットでもある。「古北戦のようなイベントに直接参加できないのが寂しいですね」と有嶋教頭。授業以外の時間を共有できないので、生徒たちとの人間的なつながりが作りづらい部分はある。喜界と与論の公民を担当する海江田智充教諭は「休み時間や清掃時間などの合間でとっていた生徒のコミュニケーションがとれていない」と苦笑する。生徒とオンラインでやりとりしながら授業を進めていくと、予定していたカリキュラムを消化できず、授業の進度が遅れがちになることも。有嶋教頭は「今後は生徒自身で進めていく時間も増やしていく必要がある」と感じている。
5年前のコロナ禍を契機に、遠隔授業を可能にするためのオンラインシステムの導入が進み、生徒は1人1台のPCもしくはタブレットが持てるようになった。遠隔授業の導入により多様な科目の開設が可能になり、今後は生徒の多様な進路選択の可能性も広がる。「離島教育の可能性が大きく広がったことは間違いないです」と有嶋教頭は今後の可能性に期待を寄せていた。